統計学輪講(第43回)

日時	  2001年1月30日(火)    15時〜16時40分
場所	  経済学部5階視聴覚室
講演者    和合 肇(名古屋大学)
演題      景気循環モデルの非対称性と共変動

概要:
景気循環を統計的に計測することに,最近その関心が復活しているように思える.
景気がいつ転換したかを知ることは,適切な経済政策を策定する場合に重要である.
Burns and Mitchell 以来の伝統では,景気の転換点を見つけることが実証的な
景気循環研究の主要な仕事であった.NBERの方法は「理論なき計測」であるとして
批判されたが,景気循環を統計的に計測することは依然として研究する価値がある.
米国の景気循環に関する Hamilton (1989) のモデル以後,マルコフ・スイッチング
自己回帰モデルはマクロ経済変動の実証的研究で次第に使われるようになってきている.

Burns and Mitchellによれば,景気循環には次の2つの特性がある:共変動(co-movement)と
非対称性(asymmetry)である.現代の計量経済学的実証分析の主流は,景気循環のこれらの
2つの特性をそれぞれ検証することに注がれた.Stock and Watson (1991) の一致経済指標
のダイナミック・ファクター・モデルは,景気循環の共変動の特性に焦点を合わせたモデル
の例である.Hamilton (1989) のマルコフ・スイッチング・モデルとTong(1983)やPotter(1995)
の実質生産の閾値(threshold)自己回帰モデルは,景気循環の{\bf 非対称性}の特性に焦点を
合わせた代表的な例である.計算能力の進歩と数値計算やシミュレーション技術の発展と共に,
最近の研究は統合的な時系列分析の枠組みの中で景気循環の2つの特性を結合することに
向けられている(Diebold and Rudebusch (1996)やKim and Nelson (1998)).

本報告では,景気循環を統計的に観測するモデルに関する最近の動向について報告する:
1. 景気循環モデルで構造変化をモデル化するいくつかの方法
2. 景気循環モデルにおける非対称性の検定
3. Hamiltonのマルコフ・スイッチング・モデル(日本の実質GDPデータ)
4. Hamiltonモデルのベクトル自己回帰(VAR)モデルへの拡張
5. ベイズ推定とGibbsサンプリング
6. Stock & Watson 型の一致指標モデル
7. Stock & Watson 型の共通因子モデルのGibbsサンプリングによる推定
8. マルコフ・スイッチングを組み込んだ共通因子モデルのGibbsサンプリングによる推定
9. おまけ

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