統計学輪講(第14回)

日時    2005年 7月 5日(火)  15時〜16時40分
場所    経済学部新棟3階第3教室
講演者  大野 洋平(慶應義塾大学理工学部准訪問研究員)
演題    誤差分散および順序制約下での正規分布の平均と分散の改良推定
概要:
 統計的決定理論的立場から以下の3つの推定問題を扱う:
  (1) 線形模型における誤差分散の推定,
  (2) 順序制約がある場合の母分散の推定,
  (3) 順序制約がある場合の母平均の推定.
(2)の結果は,(1)の問題を議論することにより得られたものである.

(1) 直交表模型においては,個々の要因ごとに効果があるかどうかを検定し,
有意でない要因効果をすべてプールして誤差分散を推定することがしばしば
行われる.誤差分散を正確に推定することにより,仮説検定の検出力が高ま
ることが期待される.ここでは,プーリングの結果得られた推定量が通常の
推定量を2乗誤差損失のもとで一様に改良するかどうかという問題を議論する.
要因効果の数が多いほど改良になりにくく,具体的には3ないし4以上程度の
要因効果があると改良にならないことを示す.
 次に重回帰模型において,回帰係数に関する階層構造を持つ線形帰無仮説を
検定することが想定される場合に,2乗誤差損失とエントロピー損失のもとで,
誤差分散の通常の推定量を一様に改良する推定量のクラスを構成する.その中
でベストなものを定め,モンテカルロ・シミュレーションにより,実際にどの
程度の改良が期待されるか検証する.また,誤差分散の区間推定問題に関して
も同様に,通常の信頼区間を一様に改良する信頼区間のクラスを構成し,その
中でベストなものを定める.

(2) 母平均が未知の幾つかの正規母集団の母分散に順序制約がある場合の母分散
の推定を議論する.既知の順序制約を保存しつつ,すべての母分散に完全に順序が
つくような擬似的な順序制約を想定し,その制約のもとで得られる単調回帰推定量
の絶対推定誤差が,通常の推定量の絶対推定誤差よりも確率的に小さいことを示す.
また,区間推定に関しても同様に通常の信頼区間を改良するものを構成する.

(3) 母分散が未知の2つの正規母集団の母平均に順序制約がある場合に,それぞれ
の母集団からのいくつかの標本をもとに,母平均の線形関数の推定問題を考える.
母分散を既知として得られる制約条件下での線形関数の最尤推定量の表現において,
母分散を標本分散で置き換えて得られる推定量(プラグイン推定量)が,通常の
推定量を2乗誤差損失のもとで一様に改良するかどうかを議論する.母分散が既知の
場合であれば,制約条件下での最尤推定量は通常の推定量を必ず改良する.しかし
ながら,母分散が未知の場合は,既知の場合とは対照的に,プラグイン推定量が
通常の推定量を改良するかどうかは,標本数と線形関数の係数に依存して決まる
ことを示すとともに, 具体的に改良になるための条件を与える. 
 以上は,昨年度に学位論文としてまとめた内容である.時間的な余裕があれば,
最近の研究結果についても触れる予定である.



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