統計学輪講(第4回)

日時    2006年 5月 9日(火)    15時50分〜16時40分
場所    経済学部新棟3階第2教室
    [※ 今年度夏学期は教室が変更になっております]
講演者  竹内 文乃(医D1)
演題    Monte Carlo Risk Analysis法による疫学研究結果が含む不確実性の考慮

概要:
 今回の輪講では,修士論文としてまとめた内容を発表します.

 これまで,特定のリスク因子の健康影響を評価することを目的とした疫学研
究では,目的が同じであっても実施される研究ごとに推定結果が大きく食い違
う状況が散見されてきた.このように研究結果がばらつく原因の一つには,推
定結果に様々な不確実性が含まれ,リスク因子と健康影響の真の関係を歪めて
いることが考えられる. 
  従来の疫学研究では,測定された共変量で調整を行った上で効果の点推定値
に加えて信頼区間を算出することでランダム誤差が考慮されてきたが,それだ
けでは疫学研究の推定結果に含まれる不確実性を十分に提示できていないこと
が指摘されている(Phillips and LaPole 2003).実際,そのような解析結果が
正当化されるためには,少なくとも(i)未測定の交絡因子がない
(assumption for no unmeasured confounders),(ii)対象者の選択や参加,
欠測データが解析で考慮した共変量の水準内でランダムに生じている
(assumption for no selection bias, missing at random),(iii)共変量
が誤差なく測定されている(assumption for no measurement errors)という
3つの仮定が必要であるとされ,これらの仮定が成立していない場合,推定さ
れたリスク因子の効果は系統的誤差の存在によって歪められることが知られて
いる.実際の疫学研究で,リスク因子のランダム割付けや対象者のランダムサ
ンプリングにより(i),(ii)の仮定を保証することや共変量を誤差なく測定
することは困難である.その一方で,これらの仮定を当該データのみから 検
証することは困難であるため,これらの仮定が成り立っていないことでリスク
因子の効果の推定値にどの程度の系統的誤差が含まれているかを評価すること
は重要となる.  
 本研究では,実際の大規模コホート研究データに対して,系統的誤差の影響
を定量的に検討するために,仮定からのズレを表すバイアスパラメタを統計モ
デルに導入したバイアスモデルを導く.また,実際にバイアスパラメタに事前
分布を設定し,その分布からパラメタ値を多数回サンプリングして,通常の解
析を繰り返す,Monte Carlo Risk Analysis法により複数のバイアスを同時に
調整したリスク因子の定量化を試みた.


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