日時 2006年 7月18日(火) 15時〜16時40分 場所 経済学部新棟地下1階第1教室 ※ 次回だけ教室が変更になります 講演者 津田 美幸(統数研) 演題 Bhattacharyya inequality for quantum state estimation 概要 量子状態推定のBhattacharyya不等式の導出とその応用例を紹介する. 量子状態推定は量子力学系の未知の状態に関する統計的推定問題である. 古典的な統 計モデルの推定問題との違いは, データを観測するための測定を, 量子力学的に可能 な範囲で, 選択する点にある. 実数または複素数でパラメトライズされたモデルに対 しては, 不偏推定量の分散の最小化が基本的な問題である. ただしここでは, 複素パ ラメータz=x+iyの分散とは, (x,y)の二次元の共分散行列のトレースをさす. この問 題に対しては Yuen and Lax (1973) 等により, パラメータの一階微分に基づいた量 子Cramer-Rao不等式が導出されており, これを達成する量子ガウス状態の複素振幅θ のUMVUEが知られている. 二階以上の微分に基づくBhattacharyya型の不等式は, Brody and Hughston (1998) により, ある特殊なモデルにおいて導入され, 漸近論へ 応用された. ここではより一般的なモデルに適用可能な形で量子Bhattacharyya不等 式を三種類(S型, R型, L型)定式化する. 応用例として, 量子ガウス状態の複素振幅θの多項式g(θ)の推定問題を考える. 量 子ガウス状態は, レーザ光の量子状態の典型的なモデルであり, 量子光学や量子情報 で重要な研究対象である. 未知の複素振幅θを推定する方法としては, θが実軸にあ る場合はホモダイン測定, 一般の複素数の場合はヘテロダイン測定が知られており, それぞれS型とR型の量子Cramer-Rao不等式の下限を達成するUMVUEである. さらにこ こでは, θが実数の場合に (1), (2)を示し, θが複素数の場合に (3), (4)を示す. (1) g(θ)=θ^2に対するUMVUEは存在してS型Bhattacharyya下限を達成する. その推 定量は, 物理系にスクイジングと呼ばれる操作を施した後の個数測定によって与えら れる. (2) g(θ)=θ^3に対するUMVUEは, 生成消滅作用素の多項式の形では存在しない. (3) g(θ)が正則, 或いは反正則, ならば, ヘテロダイン測定によってUMVUEが与えら れ, それぞれR型, L型のBhattacharyya下限を達成する. (4) g(θ)が実数値ならば, ある測定によりUMVUEが与えられ, R型, L型両方の下限を 達成する. 量子ガウス状態は古典の正規分布に似ている. しかし, 古典では, 平均の多項式は Hermite多項式により常にUMVUEを構成できるが, 量子では上記のように事情が異な る.
Tokyo University