日時 2011年05月17日(火) 15時00分〜16時40分 場所 経済学部新棟3階第3教室 講演者 岩田洋佳 (農学生命科学研究科) 演題 ゲノム情報を活用した新しい育種法 ゲノミックセレクション 概要 世界人口は2050年に90億を超えるとも推計されている。この人口増を支えるには 2050年までに70%増の、年あたりでは4400万トンの食糧増産が必要とされている。一 方、最近40年間の食糧増産の速度はほぼ一定で3200万トン/年であり、今後の人口増 を支えるには今後数十年間は従来比38%増の速度での増産を行う必要がある。このよ うな高速度での食糧増産を、限られた資源(土地、水、肥料など)のもとで達成する ためには、植物体そのものの生産力を大幅に向上させる他なく、そのためには、作物 育種のスピードを高度に加速化する技術革新とそれに基づくイノベーションが不可欠 となる。 現在、育種のスピードを高度に向上させる技術として、ゲノム全体に高密度に配さ れたDNAマーカー(ゲノムワイドマーカー)をもとに優良個体を選抜するゲノミック セレクション(Meuwissenら2001, Genetics 157:1819)が注目を浴びている。ゲノミ ックセレクションでは、育成中の材料にみられる目標形質(収量性、耐乾性、耐暑性 など)とゲノムワイドマーカー間の関連をもとに、ゲノムワイドマーカーから「目標 形質を予測するモデル」を構築する。そして、その予測モデルをもとにゲノムワイド マーカーから目標形質を予測することで、「目標形質を実際に計測することなく」優 良個体を選抜する。ゲノミックセレクションでは、目的とする環境で実際に栽培せず とも優良個体を選抜できるので、育種の大幅な高速化・効率化が可能になると期待さ れている。 このようにゲノミックセレクションは、育種の新しいパラダイムともなりうる技術 であるが、植物育種における実用化のためには、実証実験や理論・シミュレーション 研究に基づく新技術の最適化など、検討が必要な課題も多い。また、形質とゲノムワ イドマーカー間の関係のモデル化手法にも改良の余地がある。本講演では、ゲノミッ クセレクションについてご紹介するとともに、そこで用いられている統計手法や今後 の課題についてもお話しする。