統計学輪講(第18回)

統計学輪講(第18回)
日時      2012年10月30日(火)    14時50分~16時30分
場所      経済学部新棟3階第3教室
講演者    岸野 洋久 (農)
演題      生体の健全性の統計的評価

概要
近年、人工種苗の繁殖能力が野生集団よりも劣っていることを示す研究が発表され、
野生集団との交雑による適応度の劣化が懸念されている。Devlin et al (2009)は
ギンザケを養殖魚と野生魚で比較し、数百の遺伝子で発現の違いを観測した。さらに、
この違いは成長ホルモンの遺伝子導入から派生する発現の変化と酷似していた。
育種のターゲット集団は方向性選択を受けているのに対し、人工種苗や保全対象生物
は環境ストレスや被食のリスクや交配相手の獲得競争による選択圧から解放される。
ストレス応答や繁殖の鍵を握る各種ホルモンは、核内受容体と結合して数多くの遺伝子
の発現を制御する。いま、新品種や食品の安全性、薬の副作用、保全生物や増養殖の
野生集団への影響を偏りなくかつ定量的に評価する方法が求められているが、このこと
は遺伝子間の複雑なネットワーク構造を踏まえることが不可欠であることを物語って
いる。そこで、生体内の遺伝子発現ネットワークの分布の許容領域の形で生体の
健全性を評価するための方法の可能性について、話題提供する。今回ご紹介する
話題は北田修一先生・中道礼一郎先生(東京海洋大学)との共同研究である。