統計学輪講(第13回)

統計学輪講(第13回)
日時      2013年07月09日(火)    14時50分~15時40分
場所      経済学部新棟3階第3教室
講演者    小池 祐太(数理D2)
演題:ティック・データに対するボラティリティ推定と内生サンプリング

概要
ティック・データとは, 株式等の金融資産の1日内の約定価格等を記録した時系列データのことである. 
本発表では, このようなティック・データから, ボラティリティと呼ばれる量を推定する問題を考える. 
ティック・データは非常に高頻度で観測値が得られているため, 観測時刻間の幅が小さくなるという
漸近論を考えると都合がよい. この際, データが(連続)伊藤過程と呼ばれる確率過程の離散観測として
得られていると仮定した場合, 実現ボラティリティと呼ばれる統計量がボラティリティの一致推定量
となることが知られている. 更に, 観測時刻が等間隔ならば, (スケーリングした)推定誤差の漸近分布が
平均0の混合正規分布となることも知られている. しかし, 一般にティック・データの観測時刻は非等間隔
なので, そのような場合の漸近分布を考える必要がある. Fukasawa (2010)では, 観測時刻と観測値の間に
ある種の相関関係が存在するとき, 実現ボラティリティの推定誤差の漸近分布は0でない平均をもつ
混合正規分布となることを示した.他方, ティック・データを伊藤過程の離散観測データとして
モデリングするには, いくつかの困難が生じることが経験的に知られている. その困難を回避するために, 
近年の研究では, 伊藤過程の離散観測データがマイクロストラクチャーノイズと呼ばれる観測誤差で
汚染されている状況を考えて, そのような観測データからボラティリティを推定する問題が流行している. 
ここではそのような推定量のうち特にプレ・アベレージング法と呼ばれるアプローチに基づくものに焦点
を絞り, 観測時刻が内生的な際の漸近分布を導出する. 結果として, 実現ボラティリティの場合と異なり, 
観測時刻の内生性は漸近分布に(1次のオーダーでは)何のインパクトも与えないことが示される.

[参考文献]
Fukasawa, M. (2010). Realized volatility with stochastic sampling. Stochastic Process. Appl. 120, 829-852.