統計学輪講(第14回)

統計学輪講(第14回)
日時      2013年10月01日(火)    14時50分~16時30分
場所      経済学部新棟3階第3教室
講演者    菅原 慎矢 (経済)
演題      高齢者介護の計量経済分析

概要
急速な高齢化を背景に、国際的に見ても大規模かつラディカルな日本の介護保険
法が制定されたのは、2000年の事であった。しかし、制度発足後10年以上を経た
今日、多くのデータが存在するにもかかわらず、この分野の実証研究の数は不足
している。その結果、現在の介護政策の決定過程においては、実証的な分析より
も、抽象的な議論がベースになってしまうことが少なくない。本発表では、なぜ
かこの分野の専門家になりつつある発表者が今年執筆した三本の論文を中心に、
実証研究の立場から日本の高齢者介護を論じる。

発表の序論として、日本の高齢者介護を概説すると共に、日本の経済学的実証分
析における、データを取り巻く環境について議論する。その後各論として、論文
1は、介護産業において非常に高くなっている労働者の離職率に対して、企業がキャ
リアアップ制度を提供することの効果を分析する。本質的に観測出来ない要素が
あり、単純な分析が難しい状況が生じているが、セット推定手法を応用すること
で実証研究が可能になることを示した。論文2は、「介護の社会化」という介護保
険の政策目標が達成されているのかを評価するため、要介護高齢者と同居する女
性の労働供給を分析する。大規模な官庁統計個票データを用いた分析により、介
護保険によって女性の労働時間は増加しているものの、この効果が女性正社員に
しか及んでいないという実証結果が得られた。論文3は、日本の介護保険制度に特
徴的な門番制度である「ケアマネージャー」を分析する。平成の大合併を加味し
て作成した市町村パネルデータを用いた分析により、ケアマネージャーの中立性
が担保されていないため、制度の効率的な運営がなされていないことが示唆され
た。

論文1: Shinya Sugawara, ``An interval regression analysis for tenures of
Japanese elder care workers using matched employer-employee data,''CIRJE
Discussion Paper F-887,
http://www.cirje.e.u-tokyo.ac.jp/research/dp/2013/2013cf887ab.html

論文2: Shinya Sugawara and Jiro Nakamura, ``Is Elderly Care Socialized
in Japan? Analyzing the Effects of the 2006 Amendment to the LTCI on the
Female Labor Supply , ''CIRJE Discussion Paper F-888,
http://www.cirje.e.u-tokyo.ac.jp/research/dp/2013/2013cf888ab.html

論文3: Shinya Sugawara and Jiro Nakamura, ``Care manager induced
demand,'' mimeo