統計学輪講 第26回

系統樹は進化の歴史を表すモデルであり，その推定は生物学における基本的な問題である．系統樹の推測には遺伝子などの配列データを用いることが多いが，別の配列を用いて推測した系統樹は異なる形を示すことがある．そのような場合，伝統的には合意樹の構成が行われてきたが，近年ではある系統樹の空間に埋め込んで分析する方法が考えられている．一方， 系統樹空間における基本的な代表点であるフレシェ平均やフレシェメジアンはある条件下で低次元の境界へ貼り付いてしまう性質があることが知られている．また，系統樹空間においては，単峰で中心からの距離のみで密度が決まるような分布であってもそのフレシェ平均，メジアンとモードは一般に一致しない．

本発表では，このような現象について説明した後，系統樹空間上の分布の位置推定への別のアプローチとしてモード推定の問題を考え，密度推定を伴う間接的アプローチと，そうでない直接的なアプローチの双方からいくつかの推定量を与える．また，その推定量の性質や計算可能性についても述べる．