統計学輪講 第3回

日時 2026年04月21日(火)
14時55分 ~ 16時35分
場所 経済学部新棟3階第3教室
講演者 奥井 亮 (経済)
演題 選択的推論の計量経済学への応用
概要

本講演では、選択的条件付き推測(selective conditional inference)に関する近年の研究成果を報告する。実証研究では統計的に有意な結果が選択的に報告・解釈されることが多いが、この選択プロセスを無視した従来の推測手法は、推定量のバイアスや信頼区間の過小被覆を引き起こす。この問題への対処として近年注目を集めているのが選択的推論、とりわけパラメータやモデルの選択を条件づけた選択的条件付き推論である。

まず、選択的条件付き推論において重要な位置を占める多面体法を解説する。多面体法は計算効率などの点で優れた性質を持つ一方、実証分析での使用にあたっては望ましくない性質も生じうる。一側検定においてパラメータが「辛うじて有意」な場合、信頼区間がゼロの左方向に大きくシフトし、事前に妥当と考えられるパラメータ値をすべて排除する「位置問題」が発生しうる。この問題は両側検定やデータカービングでは起こらないことを示す。

次に、多重仮説検定後の有意な効果に対する新たな推定量と信頼区間を提案する。ステップアップ・ステップダウン検定など広範な手法に対応し、370を超える効果の推測を伴う応用分析にも適用可能である。実験経済学およびファイナンスへの応用を紹介し、計量経済学における実践的重要性を示す。

最後に、潜在グループ構造を持つパネルデータモデルへの応用として、推定されたグループ構造を条件とした係数の条件付き分布を導出する。グループが十分に分離されず通常の漸近理論が適用できない場合でも有効な統計的推測が可能であることを示す。さらに、分離が成立する場合においても、従来の漸近的手法より優れた有限標本特性を持つことを示す。

Andreas Dzemski, Ryo Okui, and Wenjie Wang (2026+) Location Characteristics of Conditional Selective Confidence Intervals via Polyhedral Methods Forthcoming in Statistical Science https://www.e-publications.org/ims/submission/STS/user/submissionFile/68836?confirm=41dfa5b2
Andreas Dzemski, Ryo Okui, and Wenjie Wang (2026) Inference on effect size after multiple hypothesis testing https://arxiv.org/abs/2503.22369
Oguzhan Akgun and Ryo Okui (2026) Robust Inference Methods for Latent Group Panel Models under Possible Group Non-Separation https://arxiv.org/abs/2511.18550